金田んち

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拝啓 不審者 様

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先日会社から帰宅すると

「おかえり。鍵、締めてね」

家に誰かいる時は玄関の鍵を掛けることのない我が家。
ついに日ごろの悪事が妻にばれ、帰宅したが最期、明くる日まで外出禁止令の発令がきたのかと覚悟を決め、念のため尋ねてみた。

「なんで?」

日ごろの悪事とは書いたものの、実は特に身に覚えがない。しかし日常の違いというのは些細なことでも簡単に人を不安へと導く。

「町内で不審者が出たんって。回覧が回ってきた。」

鍵を掛ける理由が俺の行動でないと分かり、ほっと胸を撫で下ろした(撫で下ろすな!)。そして即座に俺の思考回路は不審者対策へとシフトチェンジした。

「えっ?何か詳しく書いてあった?」

「家に奥さんはおったらしいんやけどね、スーツケース持った男の人が玄関から勝手に入ってきたんって。その時は飼い犬が追い払ったみたいなんやけどね。」わん

「留守の時じゃなくて人がおるのにか・・まぁ留守の時なら不審者じゃなくて空き巣やもんね。」

「警察には届けたみたいなんやけど、すぐ近所みたいやから怖くて・・」

「そうやなぁ」

対策を考えようとしたが、こまめに鍵を掛ける以外の方法を思いつかない。
他に何か出来るとすれば、玄関付近に護身用の何かを常備しておくことくらいだろうか。

仕方ないのでここからは不審者本人へ贈る言葉とする。

暮れなずむ窓の光と影のなか
不気味なあなたへ贈る言葉

犯人よ、あなたは寂しかったのか?
スーツケースを抱えて出張に行った。出張から帰って目にしたのは脱け殻になった我が家。
そこに妻や子どもの姿はなく、自分のもの以外の荷物も全てなくなっていた。
自分のもの以外に残されたのはただ一つ、テーブル上の茶封筒。封を切らずとも中に入っているものは分かる。
目を逸らしたい現実。しかしこれを受け止めなければ今後もあいつらに迷惑をかける。こうなってしまったのも全ては自分の責任だ。
意を決して封を切ると、中身は・・・きっとそんな事情があったのだろう。知らんけど。しかし不法侵入は如何なものか。

もしかするとセックスレスで悶々とした人妻を探しに、出張帰りのサラリーマンを装って侵入を試みたのかもしれない。知らんけど。
そうだ、これは提案なんだが、ここはひとつ人間らしく妄想という形で手を打ってはくれないか。人間の大脳は本能を司る大脳辺縁系と、理性を司る大脳新皮質から出来ているらしいじゃないか。そしてその大脳新皮質が人間が人間たる所以だと誰かが言っていた。
犯人よ、あなたのその猛々しい本能を理性によって妄想という形で処理できないか?いや出来るはずだ。だって人間だもの。まつを。
妄想であれば誰にも迷惑をかけることも恐怖を与えることもなく、あなたの思いのままに世界を描けるではないか。素晴らしき思うがままの毎日を妄想しようではないか。
何ならこんな提案もある。
表札に『若妻 求』と掲げよう。もしかするとあなた宛ての郵便物は届かなくなるかもしれないし、偽名を掲げることも罪なのかもしれないが、そんなものはこの際気にはしないだろう。それより得るものが大きいのではないか?

とにかくだ、お願いだから不法侵入はやめよう。うちの妻が恐がっているんだ。察して欲しい。

もし俺の在宅中に犯人が来たら・・・俺は迷うことなく、長らくパンツで眠ったままの18㎝マグナムを取り出し応戦するだろう。最近御無沙汰のイチモツではあるが、今だ錆び付いてはいないはずだ!それを目にした犯人はきっと、外に向かってこう叫ぶ。

「不審者が出たぞー!!」