金田んち

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試合に勝って勝負に負けた

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ホークス優勝しましたね~。
歓喜のあまり、最近はほとんど飲まなくなった缶ビール(やっすいやつ)をプシューしました。自宅でのビールかけはグッと堪えました。あと片付けが大変になるどころか、床がふにゃふにゃになって修復不能になりそうだったので。あと、川へのダイブも自粛しました。風邪ひきそうだったので。後先ばっかり考えて行動できないのはおっさんくさいですが年輪を誤魔化すことは難しいです。

さてビール。

プシューっと開けてグビグビッと一気飲みを試みました。一人きりなら絶対チビチビ味わいながら飲んでたと思いますが、嫁が側近にいたことでちょっとでもワイルドな金田を見てもらおうと見栄を張りました。

この見栄がこれからお話しする激痛の引鉄となったのは言うまでもありません。

慣れぬビールの一気飲みを試みたため、ゴクッゴクとビールを飲み進めるうち、胃と食道の間くらいからググッと込み上げてくるものを感じました。ゲップとかゲップとか。

一気慣れしてる人ならこの込み上げてくるものの処理方法を知ってると思いますが、何せ一気慣れしてない金田ですから、そこで缶から一旦口を離し、込み上げるゲップを解き放った後に再度ビールとの口づけに移ることも手ではありました。
いや、それが最善の策だったことは分かっているんですけれど、見栄がね。その状況下における金田の中の素の金田と見栄の金田はこんな闇取引を行っておりました。

素「駄目だ、このままじゃゲップが我慢できん。一旦ゲップを解き放とう、苦しいんだ」
見栄「駄目だ駄目だ、隣人を見てみろ。妻がいるじゃないか。頑張るんだ、飲み干すんだ。死にはしない!カッコつけろよ!!」
素「でも、苦しいよ。苦しいよーーーー!!!」

飲めば飲むほどにグイグイと湧き上がるゲップ。今にも放出してしまいそうなゲップ。出してはならぬ、出してはならぬのだ。あと半分、3分の1…頑張れ!飲み干せ!!

「ぅぐっ!!ゴックン!!」

俺はやった、ついにやった!!込み上げるゲップを、ビールで流し込んでやったんだ!!
ビールが繰り出した渾身の右ストレートを、俺の左ストレートクロスカウンターでドンぴしゃのタイミングでぶっ倒した!

この試合を振り返ると序盤から激しい連打の嵐にさらされ、対抗手段を知らない俺は幾度もタオルを投げ込み投了する姿が脳裏を過った。それはそれは苦しい戦いだった。

将来ゲップとの戦いが俺の人生に組み込まれていることを本能的に知っていたためか、小学生の頃、自ら溜め込んだ息を飲みこみゲップする遊びを繰り返した。しかしその反復練習の中で、俺はゲップの出る瞬間にそれを飲みこむというカウンターパンチの練習をやってこなかった。
今では後悔している。
なぜそこまでやり込まなかったのかと、なぜゲップからの攻撃に対抗する手段を考えなかったのかと。

しかし人間、火事場の馬鹿力という言葉が表すように、いざとなればその状況を打開する行動を反射的にとるように出来ているらしい。おかげで勝てた…試合には。

この試合の中でゲップからの激しい攻撃に防御策なく戦った俺は、いや、むしろ試合を決定付けた刹那的「ぅぐっ!!ゴックン!」時において、ゲップの奴は俺の無防備な鳩尾に爆裂拳を炸裂させていたのだ。
敵を見誤っていた。
ゲップはフレイムのような朧げな造形の敵だと思っていたが、あれは霞がかったキングレオだったのである。

ゲップとの試合には確かに勝った。が、次の瞬間には俺は内なる激痛にボッコボコにやられ、座っているのもままならない満身創痍の状態であった。つまり、試合に勝って勝負に負けたのだ。

苦しい…息が出来ない…
青ざめる顔…滴る冷や汗…

この日、試合にも勝負にも勝った秋山監督は宙を舞い有終の美を飾った。
場所を変え試合に勝って勝負に負けた俺は、地べたを這いずりのたうちまわった。
勝負師は刹那的な生き方は慎むべきだ。常に何手も先を読み、あらゆる対抗策を講じなければたちまち。。

果たしてこの試合、俺の敵はゲップだったのか、それとも見栄という自意識だったのか。
死力を尽くし、布団に身を投げた。