金田んち

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無一文の男に遭遇

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きのう無一文の男に会った。

仕事が終わって家に帰ったら、奥さんに「米ついてきて(「ついてきて」は恐らく方言です。ついてきて=精米してきて)」と言われたので、車に玄米を積んで近所の無人精米所に行った。電話ボックスの中に設置された自動販売機みたいなやつだ。表に「営業中」と「台風で6日まで休みます」という手書きの張り紙があった。張り紙は手書きだったので、精米所を管理してる平和ボケしたご老人が碁盤と将棋の駒を持って「さぁ対局しよう」くらいに分からずも温かいものだったんだけど、精米所そのものは無人だけあって人の温もりや優しさの欠片もないものだった。

精米所の中に入って精米機を見たらランプが灯ってたので、30キロの玄米を投入して金額を確認した。
10キロまで100円
20キロまで200円
30キロから300円
お金の投入口は100円専用になってて「お釣りは出ません」と書いてある。なお、辺りに(といっても1.5m×1.0mくらいの狭いスペースなのだが)両替機はない。

この精米所に来るたびに思うのだが、お釣りが出ないことよりも玄米30キロ投入したのに200円しか持ってない時の「一度入れたら戻せません」の方が大事な気がする…

さて、きのうは財布に300円があったので、つーか準備してたので、300円を入金して一番白くなるモードで精米し、暖かく綺麗な白に脱皮したお米を車に積み込みました。

んで車に乗り込もうとしたら「すいません!すいません!このバイパス沿いにコンビニありませんか?」って赤シャツにタオルを頭に巻いたバックパッカーのにぃちゃんが親からはぐれた子どもみたいな目で聞いてきた。
「近くにはないですね〜。どうしたんすか」
ヒッチハイクしようと思うんすよ。トラックを。昨日バイトでここに来て、財布落として警察に行ったんすけど、身分証もないからどこに送ることも出来んって。昨日から何も食ってないんすよ。」
「そうなんすか。家どこなんですか」
唐津の方です」
この場所は福岡県北九州市のはずれ付近。唐津佐賀県。距離は…100キロは軽く超えてると思う。
ヒッチハイクと聞いた瞬間は「ヒッチハイクで日本縦断の真っ最中!」みたいな夢を持ったにぃちゃんが話しかけてきたと思ってハイハイがんばってね、そろそろ現実見ろよバーカとか思いつつ去って行こうと思った。けど、なんか困ってるっぽい。嵐の最中に橋の下でダンボールの中からこっちを見つめてる子猫みたいに困ってるっぽい。
「いや、ヒッチハイクとか無理でしょ。メシも食ってないんでしょ?唐津までいくらかかるんですか」
「電車なら2800円くらいで行けるみたいなんです。けど僕一銭も持ってないんすよ もぉ〜」
俺は今車だから唐津まで送って行けたらそれが一番良い。けど家には今精米したての米を待つ嫁子が腹を空かして待っている。俺は一刻も早く帰らんといかんばい!という衝動に駆られ…嘘ついた。本当はこいつもしかしたらあのバックパックの中に刃物とか爆竹とかロープとか仕込んでて車に同乗したが最期、俺は帰らぬ人となるんじゃないか、可能性低いけどありえるやんと思って…しかも手持ちの食料っぽいものっつったら炊きたてのご飯に似た(⁉︎)つきたての米だけなので、さすがに食わすわけにはいかなかったので
「じゃあこれで帰れるやろ。そこのバス停から駅まで行って帰れるやろ。」
「えぇ⁉︎良いんすか?連絡先教えて下さい!ぜっったい返しますんで!」
「いい、いい。まじで。またもし次会うことあったら返して。」
と4000円を渡した。
4000円ってのは、まぁ帰るための交通費と飯代です。財布まるごとなくしたなら少しの期間は預金引き出すのとか困るんじゃないかなぁと思って。

で、4000円の出費ってのは実際結構デカイので、精米からの帰路1人車の中で凹んでました。帰ってありのままの状況を奥様にお話ししたら…
「なんでそんな見ず知らずの人に4000円も渡すんだ!テメェ24時間テレビか!偽善者か!募金の為に働いてんのか!」
とか言われても仕方ないなぁと思いつつ帰った。そして話した。

「はぁ⁈ありえん‼︎」
…ですよね
「なんで警察は助けんの⁉︎」
…それは分からん
「だいたいあんた!騙されたら騙されたで良いやん」
………はい
「なんで1万くらい渡さんかったん⁉︎本当に困っとったらどうするん‼︎断られても渡してこいよ‼︎」

なんかおかしな方向で怒られました。
あと6000円、どうやって渡そうか…