金田んち

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終わらないネットとのイタチごっこ

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※この物語はフィクションです。

 

ごくたまに使うくらいだが、アイフォンを買った2年くらい前からラインのアプリはダウンロードしてある。去年の9月くらいからブログも始めたし、その数か月後にはツイッターも使い始めた。俺は一般市民レベルでは今流行っているネットのツールはそこそこ使える、流れに乗っている人だと思い込んでいた。

 

数日前、知らないアカウントから突然ラインにメッセージが届いた。

 

「失態です。色々な連絡に使えるよう、ラインを始めました。よろしければ登録お願いします。」

 

というもの。

 

失態とは・・・いったい何をやらかしたというのか。完全に何かの業者だろうと思ったが、それにしてはどこかに誘導するリンクもなければ何故か怪しさも感じとれない。

このままラインアプリを閉じてはいけないという直感が働き、もう一度じっくりメッセージを読み返してみた。

 

「矢熊です」

 

俺の失態、単なる読み間違い、職場の人だった。危うく既読スルーしてしまいかけたが、直感のおかげで何とか助かった。

 

「ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします。」

 

というメッセージを送り、アプリを閉じた。

 

翌日、ラインデビューを果たした彼を中心にスタンプがどうのこうの、通話の質がどうのこうのという話題で職場内が盛り上がった。

さほどその話題に興味はなかったが、俺もその場に居合わせていたので「通話はタイムラグありますよねぇ」とか「既読スルーとか問題になってますよねぇ」程度に適当な話をしていた。

その夜、ひととおり家事などを済ませアイフォンを見てみると、2時間くらい前にラインにメッセージが届いていた。彼からだ。

 

「来週、玉井さんの送別会変わりにランチ会を企画したいのですがどうでしょうか」

 

最近は妻のお腹が張りやすく、夜の送別会などは極力参加したくはないが、昼であればもちろん参加である。

 

「ありがとうございます。よろしくお願いします。」

 

翌日職場に行くと、彼から

 

「昨日のラインのやり取り楽しかったです」

 

・・・ファンか?と思った。

 

「何か面白いこと送りましたっけ?」

「いや、同じ内容送ったのに金田さんと山田さんの返信があまりに違ったので」

「山田さんはどんな返信したんですか?」

「大量のスタンプが送られてきたんですよ。金田さんは文章だけじゃないですか?あまりに違いが極端すぎてね、一人で面白いなぁと思ってました。」

 

ちなみに山田さんは50代、俺よりもずっとおっさんである。

 

「えっ!?山田さんのメッセージってそんななんですか」

「たぶん金田さの一生分のスタンプ送ってきてますよ」

 

そういえば山田さんには高校生か大学生くらいの娘さんがいた。さらに俺の中では日ごろからラインの着信音がうるさいことで有名だ。

たぶん普段から娘さんとラインのやり取りをする中で若い子のラインの使い方を覚えたのだろう。想像でしかないが今の若い子は文字でなく大量のスタンプを使って何かを伝える術を会得しているのだ。ボディーランゲージの一種みたいなものだ。

 

対する俺は画像張るのめんどくさいという理由でこうして書くブログには文字ばっかり。ラインもスタンプを探すのがめんどくさいので文字ばかりでたまに顔文字を使うくらい( p′︵‵。)

人間の慣れとは恐ろしいもので、知らず知らずのうちに昔はそこそこ使っていた絵文字すら使わずメールにも文字ばかり打ち込んで送るようになってしまった。

 

ブログに長い文章を打ち込んで得るものは大きいと思う。しかしそれに慣れたことで、今のネット上で普通に行われている簡素化されたコミュニケーションからはどんどん遠ざかり、若さを失ってしまった。

世界は俺の知らないところでどんどん進んでゆく。俺はブログやツイッターを始めたことでやっとネットの世界に追い付けたと感じていた。

しかしそこで行われる、若く新しいコミュニケーションの形は、やっと慣れてきたこんなくそ長ったらしい文章だけの形ではないようだ。

 

金田ネコとネットイタチとの追いかけっこはまだまだ卒業できそうにない。

 

今週のお題「卒業」