金田んち

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読書感想文 『火花』

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ピース又吉の「火花」をよんだ。

ネタバレしないように軽く書くつもりですが、勢い余って書いてしまう可能性もあるので「ネタバレ注意」と断っておきます。

又吉の母親がこの本を読んで「「花火」読んだよ」という感想を寄越したことを又吉本人がネタにしていたけど、物語の始点と終点で花火を含んだお祭りの描写があったので、そう間違えられるのはむしろ自然な流れだろうなと思った。

後々自分に届くであろうタイトルが間違った感想をネタに使うために、敢えてこのタイトルをつけたんだとしたら、又吉かなりあざとい芸人だなぁと思った。

作者自身、「芸人なら誰もが知っている世界」がこの作品なんだと言っているように、芸人ではない俺にも見えている「芸人の世界」から、芸人以外の人には知ることもないような深い部分にまで光が当たっていて、そうなんだぁと思えるほどには、その世界を興味深く覗かせてもらえた。

芸人という職業を頭に浮かべたときに、その役目というのは人を笑わせることだ。それも、自分のことを分かってくれる人だけを笑わせるのではなく、不特定多数の人を笑わせること。

その目的のために芸人が作らなければいけないのは、いわゆる「ネタ」だけではなくて、衣装やヘアスタイルによる外見なんかも含めた、その芸人独自の世界観だ。

その世界観に観客を惹き込み笑わせること。それは幸せを提供することと同義となる。

笑いを、幸せを提供するために必要なものは。芸人が探し続けるものだけど、それは常に新しく独自のものでなければいけない。

そのために必要なのはなにか。例えば常識を捨て去ること、他人の評価を切り捨てることのように、何かを排除する事なのか。それとも、すぐにでも捨てされる何かを敢えて残しておく事なのか。

そんな探求の心理を、この物語は丁寧に描写してるなぁと思った。

たぶん、「火花」の大きなテーマは「幸せ」についてなんだろうけど、「幸せ」っていう形のないものを探すのって難しいなぁと感じた。

誰かにとっての「幸せ」は、誰かにとっての「不幸」にもなり得るし。

ただ、人生という長いスパンの一部を切り取って「幸せ」や「不幸」を語るべきではないんだなと思った。

何があっても自分が終わらせなきゃ、それはまだ途中段階なだけで『バッドエンドにはならない』。
その言葉は確かになぁって思った。

あんまり書くと深く内容に触れそうなので、この辺で切り上げます。

全体で170ページくらいの中編小説だったので、わりとサクッと読み終えましたが、項数以上に感情に訴えかけてくるものが多くて、上手く処理できませんでした。また後日読み返すつもりです。

そういう意味では、普段読んでる軽めの小説のような、消費するための本みたいな感じではありませんでした。

あと、流石太宰好きを自称するだけあって、どことなく太宰の空気を感じ取ることのできる文体だと感じました。