金田んち

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バイ バイセコー

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先日、尾崎豊の息子さんがライブをやったってニュースを見たんですけどね。

ちょっと懐かしい気持ちになったので、思い出話しに嘘を交えたフィクションとして。

あれは中学3年の終わりのころでした。受験生ってことで友達がこぞって塾の夏季講座に行き出したので、俺も親に頼んで塾に入れてもらい、無事に第一志望の高校に受かり、残りの中学生活を満喫するだけという時期です。

塾には違う学校の生徒もたくさん来ていて、その中の一人の女の子M子ちゃんと仲が良くなりました。きっかけは、たぶんたまたまMちゃんが落ち込んでいる時、悩みを聞いたことだったと思う。

それがきっかけでよく話すようになり、お互い受験も終わって落ち着いたので、付き合おうかということになった。

M子ちゃんと俺は合格した高校が別だったので、高校に入学するまでの期間、もし上手くいっても1年もすればお別れすることになるだろうとは思いつつ、この中学生活のピリオドを誰かと一緒に打つのは悪くないと思えたので付き合い始めた。

このころ、友達や彼氏彼女との連絡手段は携帯のメールだった。ただ、今みたいに国民みんなが携帯を持ってるというところまでは普及してなく、生活やコミュニケーションの中心に必須の存在ではなかった。全く関係ないかもしれないが、メールアドレスの設定もわりと無防備な人が多く、manco@docomoみたいな、ドメイン前に自分の名前だけというアドレスも多かった。なので、友達数人と適当な女の子っぽい名前宛にメールを送りつけて出会う、みたいな遊びをやっていた。数人の中学生グループが1人1日100通くらいのメールを送っていた俺たちは迷惑業者と大差ない、というのはまた別の話だ。

で、M子ちゃんは携帯を持ってはいたけど、どうやら親に持たされただけのようで、家の机にしまいっぱなしで日常生活に役立ててはいなかった。なので、俺と彼女の接点は塾でのリアルな出会いと会話だけだった。

M子ちゃんと付きあい始めたのは受験が終わってからだ。なので当然、塾で講義を受けることはない。しかし俺たちは事情が事情なだけに塾に通い続けるしかなかった。別に部屋がなくても構わない、講義がなくても構わない。講義もないのになんで来てるんだと誰に白い目で見られようとも構わない。とにかく、その塾という場所を俺たちは求めていた。

そうした日々を過ごし、高校の入学式が迫ってきたある日のこと。M子ちゃんから自宅に来ないかとの招待を受けた。招待といえどもこれは決戦だ。明日の酉の刻、M子ちゃん宅の最寄駅に集合、ということになった。

翌日の決戦を控えた俺の目は冴えきり、一睡もすることなく出発の時がきた。時は満ちた。いざゆかん!!!

俺の家からM子ちゃんの家までは電車でも結構時間がかかるのだが、俺は移動手段にチャリを選んだ。バイ バイセコー。学生だから金がなかったのではない。どうしても二ケツがしたかった。ふわふわのダブルチョコレートプリンと、触れ合いたかったのだ。

集合場所までの道のりは険しい。片道1時間半くらいはかかる道中、その距離そのものもさることながら、ジェットコースターのようなアップダウンがある。さらに俺の内に秘めたるマントルの活動が活発化しズボンが隆起を続ける。

とてもやっかいではあるが、俺はウルトラソウルなハートビートをBGMにハムスターのごとくペダルを漕いだ。漕いで漕いでとにかく漕いだ。弱虫ペダルではない。強がりペダルだ。

そして…そしてやっとこさ目的の駅に着いた。すでにM子ちゃんはそこにいた…戦いの火ぶたは

切られた
チャリで来たん!?」
「お…おう」
「つかれたろー?」
「いや、今からやろ…ははは」
「ははは」
既に俺の体内は酸欠でよく考えて会話をすることが出来ない。
「ねーねー。ちょっとそのチャリかして?」
何をしたいのか分からないが、M子ちゃんはチャリのレンタルを要求してきた。俺は俺で少し座って休みたかったので、貸した。この戦場で唯一の武器を、貸した。
「いいよ、はい」
「じゃあちょっと行ってくるね」
「(どこに行くんだろう…)気をつけろよ」
MちゃんはMJみたいにスマートなスタートをきった。立ち漕ぎだった。

数秒経った時にはM子ちゃんは100メートルくらい進んでいた。

「チャリーン・チャリーン・チャリーン・チャリーン・チャリーン」

そこからM子ちゃんは5回の合図を鳴らした。

「ア・イ・シ・テ・ル」

ドリームズ・カム・トゥルーの歌詞である。


…現実はそう甘くはない。

盗んだバイクで走り出す
行く先も分からぬまま
自由になれた気がした…15の夜

M子ちゃんは待てど暮らせど帰ってこない。

5回の合図はそう…


「さ・よ・う・な・ら」

M子ちゃん

バイ バイセコー