金田んち

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トイレの平和

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今日もいつもと変わらぬ1日がスタートした。ちなみに朝はめざましテレビをつけているが全く見てない。ちらちら聞こえてくる朝っぱらからハイテンションなアナウンサーの声が若干耳障りな程度である。でもたぶん今日の運勢は12位だったに違いない。

いつも通り家を出て、いつも通りの電車に乗った。近頃の日常と違ったのは、今日は少しお腹の調子がおかしいということくらいである。

俺のお腹から「ギュルルル」という、ぞうきんを力いっぱい振り絞ったような、誰の耳にも届かぬほどのごく小さな叫びが続いている。

満員電車ですし詰めのため、別車両に設置されたトイレに行くことは出来ぬ。腹の叫びに応えぬまま、終着駅までもつだろうか。

終着駅に近づくにつれ、腹の叫び声は大きく、そして間隔が短くなっている。あと残り2駅、時間にして10分くらいだが、なんとか持ちこたえられるかどうかというギリギリのラインだ。

駅に着けばダッシュしなければならない。それもなるべく腹圧をかけないよう、そして肛門をぐっと締め付けるよう、筋肉の緩急を操作しながらのダッシュである。

無事駅に着き、満員電車から流れ出る人の流れを追い風にダッシュした。ホームに一番近いトイレは混んでいることが簡単に予想されるため、目指すはわりと空いていることが予想される、改札を抜けてすぐ横にあるトイレである。

トイレに着くと個室は満室である。小便器は空いているがさすがにそこにうんこは出来ぬ。どう見られているかは知らないが、これでも一応常識をわきまえた社会人なのだ。

個室が空くまでの時間はものの1~2分とだったろう。しかし俺の腹は執拗に肛門をノックし、また罵声とも取れる「ギュルルル」を連呼し、まくし立てられ続けた。

使用中を示す個室のドアの赤から青への変化は、暗室に詰め込まれ未来に希望を抱くことが出来ない時に差し込む、窓からの日光のようだ。「あぁ、やっと出られるのか」

空室になった個室に即座に飛び込む。扉についたフックにバッグをかけ、瞬時にズボンとパンツを下ろし、ネクタイをシャツの第三ボタンと第四ボタンとのすき間にねじ込む。

ようやく俺は執拗なまでに繰り返された「ギュルギュル」から解放されるのだ。

込めていた力を解き、すっと便器に身を任せた。

「ヒャッ!!」

奈落の底に落ちた。

一体何の必要性があるというのだ。なぜ便座が降りていないんだ。降ろして出て行けよコノヤロー!!

みなさん、トイレに平和が訪れるよう、便器の蓋を降ろして帰ってね。