金田んち

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アンパンマンを利用しすぎた

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お子様はみんな大好きアンパンマン。うちの息子も例外でなく、普段着や靴、おもちゃにいたるまでアンパンマンの描かれたものをたくさん所有しておる。
なぜそこまでお子様たちはアンパンマンが好きなのか。あの左右対称のまるっこい形が子供に受け入れられやすいだとか、諸説その要因の考察を見ましたが、真偽のほどは不明である。

好きな理由は分からないまでも、好きであることそのものは変わりようのない事実なので、息子と接するとき、何かにつけてアンパンマンを利用していたことを今となっては後悔している。

息子が鼻かぜをひいたので、土曜日耳鼻科に連れて行った。息子は病院と名のつく施設が大っ嫌いなので、ここでアンパンマンを利用させてもらう。
「ほら、鼻からバイキンマンが出てきとうやん。病院行ってやっつけてもらおう!」
子供だましの誘い方ではあるが、こう言うとしぶしぶながらついてくる。

他にも走っててこけて泣きそうな時は
アンパンマンやろ?誰がイタイイタイしたん?アンパンチでやっつけろ!」
と言うと地面を
「あんぱんっつ」
と叩きこけた痛みを忘れてくれる。

手を洗わせたいときや歯磨きをさせたいときには
「綺麗にせんとバイキンマンになるぞ」
というと言うことを聞いてくれる。

こんな感じで、日常生活の随所でアンパンマンを魔法のように利用させてもらっていた。

耳鼻科に着くと、アンパンマンの魔法は一旦解ける。建物を見ればそこが病院だと察知し、車から降ろそうとすると「イヤイヤ」と抵抗する。
しかし再度アンパンマンの魔法をかけて院内に入ると、待合室ではテレビで流れているトムとジェリーを興味深そうに見たり、靴箱のスリッパを綺麗に並べたりして遊ぶ。なぜか無造作に置かれた靴などはお気に召さないようで、綺麗に並べないと気が済まないらしい。

そして診察の順番が近くなり「金田さーん。中待ちにどうぞ」と白衣の天使に呼ばれると、再びアンパンマンの魔法が解ける。
息子は知っている。
白衣の天使はお医者さんと呼ばれる閻魔様の使いの者であることを。

泣き出す息子を宥め、泣き止んだところで中待ちに座る。息子を見ると緊張か恐怖かで体は硬直し、顔は強張り一切の笑顔もない。
バイキンマンやっつけようね」
と声をかけても、なんとかコクリと頷くのが精いっぱい。

息子の診察の順番となり
「金田さーん。中にどうぞ」
と閻魔の使いが姿を現すと
「ギヤーーーーー!!」
と激しく暴れ泣きわめく。
抱きかかえて診察台に座っても、暴れる息子の勢いは衰えを知らずさらに激しさを増す。閻魔の使い数名と俺で息子を押さえつけ、口の中、耳の中を順に診て、聴診器でモシモシすると息子の絶叫は絶好調。
次に待つアトラクションは息子の一番嫌いなダイソンばりの吸引力をほこる鼻吸機。

「キュイーン、ジュボボボボ!ジュボッ!!」
鼻水と鼻くそを超絶な勢いで吸い尽くすそれは、息子にとってはこの世の終わりのように感じるのだろう。
泣き叫ぶ息子に「頑張れ!頑張れ!!」とエールを送る俺。

もう片方の鼻にダイソンを差し込んだその時、耐えきれなくなった息子が叫んだ

「バイギンバーン!!バイバーイ!!」

真剣に息子を診ていた閻魔様も、必死に暴れる息子を抑え込んでいた閻魔の使いも、息子の放った呪文が会心の一撃だったらしい。

大爆笑された。耳鼻科で先生や看護師から大爆笑されるなんて・・あー恥ずかし。皆様アンパンマンのご利用は計画的に。