金田んち

スマホ表示の読者登録ボタンがどっか行きました。見かけた方はご連絡ください。至急引き取りに伺います。

妖怪ウォッチは古いものの良さを疑わなかった

文字サイズ

文字を大きくする 文字を規定のサイズに戻す 文字を小さくする

土曜日、こどものオムツをトイザラスに買いに行ったとき、店内は普段と変わらないくらいの人の量だったんですけど、なぜかレジには結構長い列が出来ていました。
その列には子どもの姿が多く、何か「おひとり様1点限り」みたいなセールでもやってるのかなと思っていたのですが、俺の前に並んでいた家族が買ったものを見て納得しました。あーこれが最近巷を賑わせている妖怪ウォッチのメダルで並ぶご家族の姿なのね、と。

一緒の職場の小学生の子供がいる人も「明日メダルの発売日で並ばんといけんとよ」とか言ってるのをわりと良く耳にしてたんですけど、店舗に並ぶ人たちを目の当たりにして、妖怪ウォッチの何がそこまでの情熱を生むんだと少し気になったので調べてみました。

実際にゲームをプレイしたわけではないので、実体験レポートは出来ませんが、調べるにつれて、こりゃヒットしそうだと感心する戦略を感じられたのでそのことについて。

これだけヒットしてれば妖怪ウォッチのヒットの理由を書いてる記事も結構ありました。ヒットの理由として挙げられていたものには、そのいかにもな愛くるしいキャラクターだとか、日常をテーマにしたストーリーが生む小学生からの共感性、品薄作戦やらクロスメディア戦略などが書かれていました。

それは確かにそうなんでしょうけど、妖怪ウォッチの始まりから現在までを遡って見てみると、そこから小学生がゲームをする中での満たされなさを上手くコントロールするようなコンテンツの小出しと、それぞれのコンテンツを出すタイミングで新しい客層が市場にうまく取り込まれたというのが見えてきました。
これは企画段階で段階的なターゲティングを考え、そのターゲットを獲得するために必要となるコンテンツを提供するだけでなく、敢えて出し渋ることや新しさだけに着目せず、古くからある良さへの価値観を疑わなかったことで市場の拡大を確実に図れた結果だと思いました。

まずは調べが浅く抜けてるところもあるかもしれませんが、その年表を

2012年12月  コロコロコミックで連載開始・・・①
2013年7月11日 妖怪ウォッチ(ゲーム)発売・・②
2013年12月  ちゃおで連載開始・・・③
2014年1月8日 アニメ放映開始・・・④
2014年1月11日 妖怪メダル販売開始・・・⑤
2014年7月10日 妖怪ウォッチ2(ゲーム)発売・・・⑥

それぞれの節目でどんな人たちが妖怪ウォッチに取り込まれていくのかを考えました。が結構長くなったので先にどのタイミングでどの層にターゲットを絞ったのかを。

コロコロコミック読者の小学生男子
② 読者以外の小学生男子
③ ちゃお読者の小学生女子
④ 取りこぼした小学生
⑤ 小学生の親・祖父母
⑥ 流行りものに弱い大人

以下ダラダラと長いのでお付き合いいただける方のみお願いします。

① コロコロコミック読者の小学生男子

まずコロコロコミックでの連載を開始した時点。ここではコロコロコミック読者の小学生男子(しょたっ子)をターゲットにしています。
妖怪ウォッチの主人公はいたって普通の小学生の男の子で、悩みは学校でうんこが出来ないとかどんな小学生でも持っていそうなありふれた悩みで、そんな悩みをある日突然現れた妖怪と共に解決していくみたいなストーリーらしいです。ここでコロコロコミック読者の小学生男子に共感を与え「妖怪ウォッチ」の存在を知ってもらっています。
コロコロコミック読者の小学生は玩具やゲームの情報にはものすごく敏感で、新商品の人気への火付け役としてまずこの層を掴むのはベストです。爆走兄弟レッツ&ゴーという漫画が先に広まっていたからこそミニ四駆がバカ売れしたように、ゲームを買ってもらおうにも無名のキャラが載ったタイトルのゲームをいきなり買ってみようという衝動買いが出来る小学生なんてそうはいません。

② コロコロコミック読者以外の小学生男子

コロコロコミックでの漫画連載開始から約半年、妖怪ウォッチの名も読者にはある程度知れ渡ったところでいよいよゲーム第1弾の発売です。ここでの新規ターゲットはコロコロコミック読者ではない男子小学生です。
妖怪ウォチの第1弾で戦略としてうまいなぁと感じたのが、全国1位を目指そう!みたいなネット対戦が当たり前になった時代の流れに逆行するように、ローカル対戦という身近な友達同士でしか対戦が出来ない仕様だったことと、その後発売を控える玩具がないと全てのキャラクターが揃わないという不完全さを残したところです。

ぼっちでゲームをプレイすることが多い大人と違い、小学生は仲の良い集団で一緒のゲームをやることがほとんどです。小学生だけでなく大人まで楽しんでもらうためにはネット通信対戦の機能は有効だと思いますが、まず小学生にターゲットを絞りどっぷりハマり込んでもらうためにはこの機能は逆効果です。

同じ土俵で戦うことになる相手が多くなネット対戦を採用すると、そこにいるのは自分よりもゲームに費やす自由な時間が多い大人ですから、自分がヒーローになれる確率が下がってしまうことになります。自分より強い相手に会うとワクワクする孫悟空のような小学生なんてほとんどおらず、たいていは自分が一番になりたいものです。
ネット対戦を採用しないことで、絶対的なスーパーヒーローは生まれませんが、各コミュニティ内でのヒーローが全国でたくさん誕生することになります。

ゲームそのものが深く浸透していないこの段階においては、ある程度簡単にヒーローになれる感覚を子供たちの中に植え付けるこの工程がすごく大切になってきます。敢えてネット対戦を導入せず、競争相手を近似値同士が寄り集まるであろう小学生の仲間に仕様的に限定させたこの戦略はよく考えたなぁと思いました。さらに、ターゲットを徹底的に絞り込んだことで、妖怪ウォッチは大人の知らない自分達のゲームという、秘密基地を造る時のワクワクした気持ちのような特別感も抱かせたと思います。

その他にも、対戦なんてやりたくないよ自分だけで楽しみたいよ、という小学生でもDSのカメラ機能を使って写真を撮ると、そこに妖怪が映り込む「ふしぎレンズ」という機能があります。子どもにしか見えないトトロのように、写真を撮った自分にしか妖怪が見えないという、ここでも特別感を感じたり好奇心を擽られるアイディアも良く考えられてるなと思います。

しかし、ゲームをやり込んでいく中で、やはり日本中の強い相手と戦ってみたいという気持ちやゲーム単体だと全ての妖怪が揃わないことへの満たされなさが子供たちの中に芽生えてきます。単に楽しんでもらうだけではなくその不満を生むことがこのゲームの目的です。

③ ちゃお読者の小学生女子

次の流れは少女マンガちゃおでの連載開始です。ここでのターゲットはもちろん小学生女子。この工程は色んな記事で着目されてましたので端折ります。

④ これまでに取りこぼした小学生

さて次はアニメ放映の開始です。妖怪ウォッチのキャラクターを見ると、まるっこくて良くわからん、どちらかというと古い感じのキャラクターなんですけど、ターゲットが小学生なので間違いなくこれでウケます。永年アンパンマンが子供たちから愛され続けているのと同じように、まるくて愛くるしい良くわからんキャラは子供の目から見ても受け入れやすく愛しやすいキャラクターで、そこに古さを感じるのは大人の目線だからです。

そして妖怪ウォッチの制作会社レベルファイブの社長さん曰く、ストーリーに「起承転結」は求めず「オチ」を求め、独自の主観で笑えるものを作り出すのではなく、世の中に溢れるあらゆる笑いのセンテンスを取り込んだそうです。

日常の小学生の悩みを可愛いキャラが解決していく中で笑えるアニメ、しかも学校では話題になっているらしい「妖怪ウォッチ」というタイトル。男女問わず漫画でもゲームでも取りこぼしてしまった小学生をここで回収してしまいます。

さらに子供がアニメを見ている時に親の関心も惹けるよう、アニメ中に使うギャグは親世代間で流行ったものも多く取り入れられているんだとか。策士ですね。

⑤ 小学生の親・祖父母

そして遂に現在社会問題化しつつある玩具の登場です。ここでの新規ターゲットは小学生の両親やグランドファーザーバーバーです。ここで上手いなぁと感じたのは、これまではゲームから派生して出来た新しい単体の玩具だったと思いますが、妖怪ウォッチでは玩具をゲームと連動させ、ソシャゲーの課金ガチャを現物として作るという発想です。

これの凄いところは、単に玩具としてだけでなくゲームの一部としても使えるという点のみならず、ゲームへの課金のハードルを取っ払ってしまったところだと思います。
お金を使うという点ではゲーム内課金も現物の玩具を買うことでも一緒なのですが、現物の玩具への課金にしたことで、子供のそれは親やじじばば世代でも体験したことのある好きなものを集めるという行動に見て取れるんですね。

子どものゲームへの高額課金が一時問題になったこともあってゲーム内で金を使うことには抵抗のある保護者でも、好きな玩具を自分もあの頃集めたなという体験があれば自然と財布のひもも緩んでしまうと思います。
さらにその玩具が時計とメダルという、どの世代にも分かるものだったということで、ジジババ世代でも孫に買い与える玩具としての抵抗がなかったんだと思います。

こうして玩具に課金することでゲームだけでは揃わないキャラがいることでの満たされなさを解消するため、しかも品薄作戦も功を奏しおもちゃがバカ売れするのですが、売り切れ必至の商品を奪い合う子供と転売屋の外に親が参戦することは、レベルファイブとしてはもしかすると予想外だったかもしれません。

何の番組だったかは覚えていませんが、今の親子関係は昔のそれよりも距離が近いそうです。就職説明会に保護者席が設けてあったり、受験に同行する保護者が多すぎて送迎バスが足りなくなったり、昔よりも子供と行動を共にする親が増えたそうです。
妖怪ウォッチの行列や転売屋への不満も、本来ならそれを楽しみにしている子供自身から発せられるはずですが、だいたいそこに不満があるのは子供と一緒に並ぶ親です。

俺が子供の頃は「売り切れならしょうがない、また出るまで待ちなさい」と諭されるだけだった品薄商品への対応も、今や親が一緒に並んで手に入れていますから。

これって子供と親の距離が近いからこそ、子供の遊具についての知識が親にあり、さらに親が子供の偏差値を自分のステータスのように扱い、あたかも偏差値の高い子を持つ自分が凄いみたいな、なんかそういう競争心にも火を点けたんじゃないかなと思います。

結果、純粋に玩具が欲しい子供、儲けを狙う転売屋、転売屋にも他所の親にも負けたくない親という需要の三重奏みたいなことが起こったんじゃないかなと思います。

⑥ 流行ものに弱い大人

最後はについ最近のことです。妖怪ウォッチ2(ゲーム)が発売されるのですが、ここでネット対戦を実装することによって、コミュニティ内の対戦だけでは飽きてきた強者の興味をグッと引き止めることになります。

さらにこのソフトの発売での新たなターゲットは流行りものに弱い大人たちです。

世間で騒がれているから興味が出た(俺です)という人や、興味はあったし知ってたけど今時ネット対戦も出来ないんじゃなぁとくすぶってた人たちも含めて。前作よりも孤独に楽しめる要素がプラスされている点からしても、今作でのターゲットは大人であると思います。


こうして段階的にあらゆる層をの取り込みに成功した妖怪ウォッチ。ここまで書かなかった項目でも対戦を半オート化することで絶対的な強さを作らなかったことなど、随所に工夫の見て取れるこの作品の次なる狙いはどこなんでしょうか。キャラの顔を崩すゲームでスマホゲーム市場にのり込んでくるのか、言語教育みたいな要素を加えて海外進出まで見据えるのか。たぶんゲームをプレイすることはないでしょうが、その動向は地元福岡の企業であることを差し置いても気になるところです。