「空ちゃんの幸せな食卓」雑感
ツイッターにも載せたんだけど「空ちゃんの幸せな食卓」読んだ。
文庫本40ページくらいの短編小説なので、手軽に読めると思うので気になった方は是非。
やっぱ200字だと物足りなかったのでここに感想を載せておく。字数制限のないブログは何と心地よいものか。
あ、存分にネタバレ含むのでご注意下さい。
- 作者: 大沼紀子
- 出版社/メーカー: ポプラ社
- 発売日: 2013/04/03
- メディア: ムック
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この短編小説の語り主は小学生の設定で、主な登場人物はJCだかJKだか定かでないがおませなお姉ちゃんと、タトゥーに金髪ピアスの血の繋がりのない義母。この義母は、大切な人には自分のことをモッコ、チン「モコチン」と下ネタ混じりのあだ名で呼ばせる何かと奇抜な人だった。
実の母が不慮の事故で亡くなったことにより、実母と離婚の後再婚した義母に引き取られる事になった語り手と姉。
家族との生活というよりは他人との同居生活の開始である。思春期で敏感な年頃の姉は義母に反発を繰り返すものの、女としては経験豊かでズル賢い義母にはスルリと躱される毎日。
ある日訪ねて来た義母の親類から義母に、このままだとお互い不幸になるだけだから早く子ども達を実母の親類の元に行かせろと心配されるも、義母は「自分のことが嫌いだから自分の子は愛せる自信がない。だから他人の子であるあの子らだからこそ大切に愛せる。悪しからず」と、親類の心配をよそに姉妹への愛を語るやり取りをこっそりと覗く姉妹。
いつしか義母と姉の口論もJSである語り主には仲良しであるように見えてきた矢先、姉は行く先が出来たのだと家を飛び出す。その時姉の薬指に光物を見た。
義母はいわゆる夜の仕事に就ていたため、姉の行動を制することは出来ない。
さて、さすがに内容全てを書けないためネタバレはここまでとして、結末としてはハッピーエンドとなるわけです。後の流れが気になる方はご自分でお読みください。
この作者は1975年生まれらしいんですけど、この物語の語り手である小学生らしい無垢な文体が随所に現れつつも、やはり大人らしい書きぶりでテーマのブレを最小限に抑えている印象でした。なんつーか大人の文章である水槽の中で、義母や姉の言動に右往左往する語り手の感情が、水槽の中を自由気ままに泳ぎ回る魚のような、そんな印象。
なので小学生らしい「このままじゃテーマから突き抜けてしまう」みたいな危なっかしさを醸し出しながらも、絶妙なタイミングで挿入される大人の女性の文章で最小限に軌道修正してくれて、わりとこういう小説にはありきたりな設定ながらもスリリングに出来てるなという感想を抱きました。
そして、この小説で一番響いたフレーズは「資本主義に、馴染めない性質なんだよね。需要のないところに、供給しようとするっていうか」というもの。
うるせー!俺のブログのことかー!って電車の中で叫びたくなった。
ちなみに同時収録されてる「坊ちゃん文学賞大賞」を受賞したらしいデビュー作「ゆくとし くるとし」は「空ちゃんの幸せな食卓」みたいな文体のギャップはなく、安定して女の子が書いたフワフワしたもんだなぁという印象。
ただ全体的な文章のリズム感は好きだったし、何より難解な比喩なんてほとんどないのでスラスラ読める作品群でした。